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塩味ビッテン
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レビューワー仲間の評判がすこぶるいい。こうなるといくらファンであっても天邪鬼になる塩味ですので作品に罪はないのですが今回はソルティーモードを「強」にして「死海レビュー」しますよ。
  処女作である大恋愛小説「カフーを待ちわびて」を読んで以来原田さんのファンです。彼女の小説は、いち高校生がファッションに目覚めてブレークしたり、つぶれかけた映画館のしがない主人が大逆転し成功したり、普通のOLが挨拶の達人になったりと、市井の一般市民がその才能でライバルを倒し大躍進するといったスタイルの小説が多いのですが、本書は全く新境地です。なんとミステリー(っぽい)です。なんと国際舞台です。なんと時間軸が大きく動きます。なんとエリートが主人公です。どうやら原田さんはキュレーターとして働いていた経験もあり、絵画をめぐる得意分野のお話のようです。それだけに肩に力が入っている 感じで、ファンとしては違和感プンプンです。 

 大原美術館の一介の監視員としてはたらく織絵が、館長から呼び出されます。依頼されたのはニューヨーク近代美術館からルソーの傑作「夢」を借り受けるための、トップキュレーターであるティム・ブラウンとの交渉。なんとそれはティムからの指名で、実は織江とティムには過去に浅からぬ縁があったのでした。という書き出しはOKです。この中年のおばさん織絵の過去の秘密に早くもわくわくなのです。

 ここからは時代を17年さかのぼり、織江の若き時代のバーゼルにおける冒険物語です。主人公はニューヨーク近代美術館のキュレーターであるティム・ブラ ウンとバトンタッチします。大学の若き美術研究家、オリエ・ハヤカワ(カタカナ)とティム・ブラウンはともに当代きってのルソー研究者でした。彼ら二人は それぞれ代役として謎の絵画コレクター・バイラー氏に招かれました。バイラー氏は自らが所蔵する、ルソーの名画「夢」とそっくりな「夢を見た」という作品の真贋鑑定を2人に依頼したのです。説得力のある判断を下した者にこの絵が譲渡されるという条件ですが、これがルソーの真筆であれば絵画界を激震させる大事件となるはずです。ここに絵画鑑定勝負の火蓋が切られるのでした。「料理対決」に代表されるバトルモノはいいですね。とくにこう言う絵画薀蓄ものの小説場合、勝負の経過でその絵画会の裏話や情報を読者に披露することで、絵に関する解説が行き届くといった一石二鳥の効果があります。

 ただしバイラー氏は鑑定する一週間の間に、二人に「1冊の古本」を読むことを命じるのでした。この本には人々に理解を得られず貧しいながらに絵を描き続 けた天才ルソーの生涯が描かれており、これが作中小説となっています。これがなかなか読ませる出来で、本小説全体を更に過去の1900年代のパリに舞台を移動させるのです。

 更にこの絵「夢をみた」が窃盗されたものという裏話や絵の背景にあるピカソの影の謎をいっぱいいっぱいに盛り込み、これに纏わる怪しい人物や組織が二人へ圧力を加えるといったおまけつきです。

「夢をみた」の真贋は如何に?この名作は誰の手には渡るのか?付きまとうピカソの影と謎は?織絵とティムの恋愛の成就は?そしてバイヤー氏の正体は?
 うーん。原田さん得意分野だけあってデラックスフルーツチョコパフェ・スペシャル状態の収拾のつかなさぶり。まるであまり走り回らないダン・ブラウンの小説のようになっています。

 美術の世界のことはもちろん、ルソーがどのように生きてどのように作品を残したのかが分かりやすく書かれているので、美術に明るくない人でも違和感無く読めるところは文句なし。

 というわけで、この小説悪くは無いんですよ。エンターテーメント小説としては十分に読ませるレベルにはあり、それだけに「本が好き」諸志も大いに高評価しているのは十分に解るのですが、個々の事象を捉えると緻密さに欠けているため、ツッコミ所がかなりあるのが残念。並べますよ。

1. ティム(Tim)・ブラウンの師匠の名前がトム(TOM)・ブラウンであり、ティム自身がトムを騙ってバーゼルに来たという設定もあまりにも安直だし、主題とは全く関係ないとことでごちゃごちゃしすぎ。
2. 織絵が鑑定の代打で呼ばれただけというのも意味不明。実は織絵の師匠が招かれていたのですが、代打で彼女が呼ばれています。実は彼女のほうが師匠よりルソーには詳しいはずなのに・・・この辺の設定が甘い。
3. なぜバイラー氏はあの古書を7日かけて読ませたのか不明。確かのこの古書は作中の大きな鍵になるのですが、バイラーさんの意図が示されていないので違和感満点。
4. 伝説のコレクターと言われているわりには、バイラー氏は側近のに裏切られています。この辺の危機管理が出来ない人が成功者でいられるわけないし・・・
5. 織絵もティムも一流の研究者のはずなのに発表会の晴れ舞台で感情的過ぎて、プロらしくない。この会が小説中の山場なはずなのに、これまたあっさり流しすぎ。
6. おもわせぶりに顔をだしたティムの師匠であるトム・ブラウンは、もっと意外なからみ方をしてくれると期待していたのにあっさり流してくれて消化不良。
7. 小説中小説である、アナグラムの謎も「これ必要なの?」という竜頭蛇尾で意味なし。ピカソならまだしもパッションって何?
8. もう一人の謎の美女ジュリエットの扱いが軽いし、登場の仕方がご都合主義的。しかもインターポールって・・・噴飯ものですね。
9. プロローグでひときわ異彩を放った織江の娘・真絵の存在が、中盤意向全く無視されている。最終章できちんと閉めてくれるものと期待していたがこれまた肩透かしで残念。

て、いうわけで総じて軽い。軽くてもいいんですよ、面白ければ。でも読者に与える違和感(突っ込みどころ)が多いということは、もっと丹念に仕上げるべき であるということです。この倍量ぐらいのページ数にしても素材と筆致がいいので読者はついてくると思いました。原田さん長くて面白い話を丹念に描いてほし いものです。

 efさんも絶賛してるし確かに読ませる小説です。好きな作家さんですがそれだけにここはは心を鬼にして「鬼塩」2点。
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塩味ビッテン
塩味ビッテン さん本が好き!1級(書評数:2220 件)

「本を褒めるときは大きな声で、貶すときはもっと大きな声で!!」を金科玉条とした塩味レビューがモットーでございます。

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